「んっ、は…っ、めり、カ…も、っ」」
「…まだ……まだ、足りない」
「ふ、ぅっ…」

かれこれもう十分も、こうしてイギリスの唇を貪っている。
果たして本当に十分程度なのか、それとももっと長い時間なのか正確にはわからない。時計なんて見ている余裕、今の自分には少しも無かった。
けれど短い時間で無い事は確か。世界一を誇る舌技の持ち主である筈の彼が、とろとろにとろけそうになる程度には、長い時間。
かく言う自分も、既に気持ちはとろけきっている。イギリスの口内壁を擦る度、舌を絡ませる度、垂れた唾液を舌で拭う度、酷く心が掻き乱された。
反面、どこか遠い所ですーっと気が落ち着いて行くのを感じる。少しづつ、少しづつ満たされていく、気持ち。
けれど足りない。まだまだ、こんなものでは。

「ぁ…も、いい加減に…ぅん、」
「ん…もう、少し……」

腕の中でイギリスが身じろぐ。閉じていた目を薄く開けば、頬を染めてきつく目を瞑り、必死に俺のキスに答えているイギリスが間近に映る。
また一際胸が跳ねた。この鼓動は本当に留まるところを知らないと、改めて思い知る。
対イギリスに限って、だけれど。

「ふっ、は、ぁ……っ」
「っ、はっ……」

ようやく唇を離せば、透明な糸が一瞬伝った後に垂れ落ちる。
大きく胸を上下させて息を整えるイギリスの顎に一筋の線が流れているのに気付き、そっと舌で掬い上げた。その感覚すらもどかしいのか、ふる、とイギリスの身体が震える。
薄く涙が張った目で見上げられ、既にきつい下半身のしめつけが一層強くなった。
見るまでも無く、イギリスも同じ状態である事はわかりきっている。お互いにキスだけで上り詰める様になったのは、互いの影響だ。

「もう、きつい?」
「っ、誰が…!」
「なら、もうちょっと」
「なっ!もうやめ、んん…っ」

元から柔らかい唇が、ふやけて一層心地良い感触を生む。
自分の唇もそうであるのかと、自分では知りようもないが多分、おそらくは同様なのだろう。
イギリスの表情と零す声が、全てを物語っていた。
すり、と下半身が触れる。お互いの硬い物が、擦り合わされる。

「ぅっ、んんっ!ふぁ、アメリ…っ!」
「くっ、う…っ、んっ…」

逃れようとするイギリスの頭を両手でがっちりと抱え込み、身体まで全てぴったりと密着する。
最早歯も当たるし唾液は溢れるしでお世辞にも上手いキスとは言えない。世界四位が聞いて呆れると、後で罵られたって構わない。
今はただ、只管に欲している。自分の全てが、イギリスの全てを。

「ぁっ、ああっ…も、だ…ふぅ、んっ…」
「んっ、んん、っ…!」

腰が震えだす。まずい、と頭の片隅で警告音が鳴るがもう止まらない。
こんな会議室の隣の空き部屋の片隅で、扉の向こうに人の話し声を聞きながら。
二人して性の匂いを纏わせて午後の会議に出席しなければならないかもしれないと考えながらも。
衝動が止まらない、初夏のある一日の出来事。



09.07.04