もう何度この行為に至ったかわからない。けれどどれだけ回数を重ねても、満足する事なんて無かった。

「あ、あ…っ、アメリカ…アメリカぁ…っ」

彼の名を呼び己の性器を扱き上げる。繰り返し繰り返し行う果てのないこの行為はイギリスを快楽に溺れさせ、同時に地の底まで叩き落とす行為だった。
わかっている。精液を吐き出しさえすれば熱に浮かされた頭は冷めて、死にたい程の絶望に見舞われるだなんて事。
それでもこうして何度も繰り返してしまうのはどうしてかと、考えればすぐに答えの見つかるような考えは既に幾度も巡らせた。
答えなんて毎回口にしている名前で十分だろうと、理解もしている。自分は、アメリカが好きだ。
愛しているのは知っていた。例え裏切られた過去があったとしても、その愛を完全に消し去る事が出来ないという事も。
けれど、その愛が性欲付きの恋心に変化していると気付いたのは最近の事だった。偶然触れた手に、痛い程の熱を感じて。
それからはもう、まるで覚えたての猿のように一人でのこの行為に溺れている。
ベッドに入って目を閉じて、脳裏に彼の姿が浮かぶと同時に始まるこの行為。しかし今日はそこに至るまで待てずに部屋の床に這いつくばり行為に浸っている。
ぐちゅぐちゅと音が響くまでに溢れている先走りを塗りつけて、硬く反り腹にくっついている性器を一心不乱に扱き上げれば、上り詰めるのなんて簡単だった。

「ふぁっ、あああ…アメリカ、ぁ…アメリっ、んぁあああっ!」

びくびくと下半身から震えが上り、先端から精液が飛び出し床を汚した。
点々と飛び散ったそれは連日の行為の所為で量は少なく、イギリスは荒んだ息を整えながら呆然とそれを眺める。
息が収まるにつれ、毎度の様に頭の熱も引いていく。そうすると無性に虚しくなってしまうのもいつもの事。

「…アメリカ……」

呟いて、自分の声の情けなさに涙が滲んでくる。
本当はこんな事したくない。かつては弟として愛した彼を汚し、裏切るようなこの行為。
それでも我慢が出来ない。あの手に直接触れられる事が敵わないなら、せめて脳裏に想い浮かべて己を慰めるぐらいは許されたかった。
想い描くような行為が、例え現実のものになる日が来ないとしても。

『可哀想なイングランド。そんなにあの子が好きなのね』

ふと届いた声に、頬を床にくっつけたまま視線のみを宙へと投げる。
そこには見慣れた妖精が浮かび、微笑んでイギリスを見下ろしていた。

『そんなに好きなら告白しちゃえばいいのに』
「……出来る訳無い。知ってるだろ?あいつは俺の、」
『弟だって言うんでしょ。頭に元、が付くじゃない。臆病なイングランド』

この状況を見られたのは何も初めてではない。それでも羞恥心はしっかりと生まれるので寛げたズボンの前を隠しながら言うと、妖精はイギリスの考えには納得出来ないと言うように大きく溜息を吐く。
しかしすぐに表情を明るくしイギリスの目前を飛び回って見せる。

『そうだ、イングランド。貴方にとっておきの魔法をかけてあげるわ』
「魔法…?」
『そう。見て』

ふわりと宙を舞って、妖精は部屋の隅に置かれた姿見へと向かう。
導かれるように視線を映すと、そこには床に座り込みだらしなく衣服を乱した己の姿がしっかりと映っていた。
改めて確認させられるようで息が詰まる。けれどそんな事は気にしていない様子で妖精はその輝きを一層増した。

『最近めっきり力も弱まってしまって。この程度で悪いけれど』
「…何、」
『さぁ、好きなだけ「あの子」に触れると良いわ』

ふわ、と一瞬辺り一面が光に包まれて思わず目をきつく閉じてしまう。
暫くしてそっと目を開けると光は収まり、妖精の姿はいずれかへと消えていた。
イギリスは大きく目を見開く。気紛れの妖精が突然姿を消すのなんていつもの事。そんな事で今更驚きはしない。けれど。
鏡に映る自分の姿が、自分のものではない事に酷く心を揺さぶられた。

「あ……めり、か…?」

お馴染みのフライトジャケットに、くたびれたTシャツ。ズボンは同様に肌蹴ていて、シャツの裾からがっちりと筋肉の付いた足が伸びている。
顔にかけたテキサスも、その奥にあるスカイブルーの瞳も。何もかもがよく知る「アメリカ」のまま、表情だけが恐らく今、自分が浮かべているであろうものと同じだった。

「な、なんだ…これ……」

そっと鏡に近寄って触れてみても、鏡の中のアメリカは同じ動作をするのみで困惑の表情を浮かべている。
混乱している頭で考えて、ようやく先程の妖精の言葉を思い出した。そして理解する。
このアメリカは幻覚なのだと。自分の姿がアメリカに変わって見える鏡になっているだけだと。
そう、理解しつつも再び手を伸ばす。伸ばさずにはいられなかった。
震える右手が鏡に触れれば、冷たくて硬い感触が生まれる。それはそこにあるものが実態ではないと突き付けてきたけれど、そんな事はどうでもよかった。
アメリカが、自分に向かって手を伸ばしている。鏡越しに触れて、どうしたらいいのかわからない様な表情を浮かべて、戸惑っている。
鏡の中のアメリカと目があった刹那、もう駄目だと思った。

「あっ、アメリカぁっ!」

鏡に触れたまま、空いた片手を熱を放出したばかりの性器へと伸ばす。そこは既に天を仰いでいて先端から蜜を零していた。
数回扱き上げるだけでその硬度は完全なものとなり、イギリスは一層強く手に力を込める。
ふと見れば、アメリカのものも同じ様な状態だった。頭の奥ではそれが当たり前のことであるとわかってはいる。
それでもイギリスの物とは大きさも形も異なるアメリカのものが脈打ちながら震えているのを見れば、興奮は最高潮に達して腰にずくんと重いものを感じた。

「は、あああ…ぅ、アメリカ…あめ、りか…ぁっ」

手の動きを早めるにつれて膝ががくがくと笑い出す。けれど床に伏せてしまえばアメリカが見えなくなってしまうと必死に鏡に縋りついた。
そうして目線を上げると、これ以上無い至近距離にアメリカの顔がある。思わず胸が大きく跳ねた。
鏡の中のアメリカは少しテキサスがずれている。大好きなアメリカのブルーアイズに見つめられ、どうしようもない想いに満たされたイギリスは考える間もなく鏡に唇を押し付けた。

「んぅ、むっ…は、めりか…あめ、んっ」

冷たい、鏡越しのキス。実際には向こうにアメリカはいないのだから、これは只の無機物へのキスだ。
なのに、薄く開いた目には同じ様にこちらを見るアメリカがいる。必死にイギリスに口づけようとする様、それだけで暖かく感じるこれも幻覚だろうか。
我慢出来ずに鏡を抱え込み、下半身までも擦り付ける。アメリカのモノに当たるようにと、一心不乱に腰を揺さぶった。

「あんっ!アメリカっ、アメリカぁっ!お前の、熱いぃっ!」

果たして鏡への摩擦でここまでの熱が生まれるのかと言う程に下半身が熱い。そう感じれば感じる程本当にアメリカと肌を重ねている気分が増して、イギリスは正常な思考回路をすっかりと閉ざしてしまった。
ガタガタと鏡が揺れる音と、クチュクチュと水分の擦れる音。聴覚までもを犯されて快感は一気に上り詰める。

「ふぁっ、ぁああ…もっ、だめ、らめぇっ!でる、でる、イっちまう!」

最早鏡を覗く余裕すら残っておらず、イギリスは喉を反らせて腰の動きを早め、より強く押し付けた。

「ぅぁ、んんっ!い、一緒…いっしょ、に……、ふぁああああっ!」

先端が鏡を突いたと同時、精液が飛び出して柱となった。
先程の射精とは比べ物にならない量が吐き出され、暫くイギリスは全身を小刻みに震わせながら全ての熱を表へと出す。

「は、あああ……っ、アメ、リカ…あぁ…っ」

開きっぱなしの口から擦れた声を出し、最後の一滴がつー、と性器を滑り落ちたところで今まで精一杯張っていた膝が折れる。
床に落ちた視線をゆっくりと上げて見れば、鏡の中にはまだアメリカの姿があった。彷彿とした表情でこちらを見つめる、あられもないアメリカの姿。
その姿を汚す鏡に飛んだ精液を両手で拭って、なんの躊躇いも無しにイギリスは自分の両頬へ擦り付けた。
生臭い臭いと、暖かな感触。それだけで満足して、表面に穏やかな笑顔が浮かんだ。

「アメリカ……愛してる」

柔らかい声でそう呟いて、イギリスはもう一度鏡にキスをした。





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変態なのは私じゃない、イギリスだ!
……を合言葉にしています。イギリスが変態な話を書くときは。
前ジャンルから同一人物カプが大好きでして、イギ×イギとか萌える訳です。
今回は米英ですが、一人ネタ好き過ぎてこんな話…鏡貪って擦り付けるイギ書きたかっただけですすません。
しかし予想外に病んだ感じになってがっかりです。もっと楽しく一人プレイする紳士が書きたい。


09.01.18