ずっと傍にいるものだと、信じて疑う事など無かった。
「また入れたってな、美味しいショコラトル」
「っ……」
途端、再びロマーノの表情が固まった。その変化に気付かず、スペインは微笑んだまま言葉を続けた。
「一回づつ美味しくなってくるから、なんやもう次が楽しみで」
「次は無い」
「…え?」
言葉を遮られはっきりと発されたロマーノの台詞に、スペインは一間置いて間の抜けた声を上げる。俯いたロマーノに視線を移すと、そこには唇を噛んで、苦しそうに眉根を寄せた表情があった。
次は無い。それは、もうロマーノがスペインにこうしてショコラトルを入れる事が無いと、言葉通りの意味だろうか。それともいつも通りの照れ隠しかと、思考を巡らせている間にロマーノが顔を上げる。
しっかりと、スペインに目線を合わせて。ほんの一瞬。ロマーノが口を開いて言葉を発するまでのそのほんの僅かの間が、スペインには酷く長く感じた。
「俺、お前の家を出て行く」
そしてその言葉を聞いた後、その長い間がいっそ永遠であればと思った。
「神聖ローマ、消えちゃったから」
「……な、」
言いかけた言葉を呑みこんで、ふとある日のスペインとフランスの会話を思いだす。
夜中に訪ねて来たフランスがスペインと呑みながら話していたのを、ロマーノは廊下で聞いていた。トイレに行く途中に少しだけ、ではあるが。
記憶を辿れば確かに、神聖ローマが消えたと話していた気がする。そして、ヴェネチアーノが酷く落ち込んでいるとも。その時はさして気にも留めずに流した話だったのだが、まさか今になってその事を思い出すなんて思いもしなかった。
流石に良心が咎めて、皮肉を言う気にもなれない。そのまま黙り込んでいると、ヴェネチアーノが話を続けるべく再び口を開いた。
「俺、独立する」
※激し目の描写の為、18禁部分のサンプルは控えさせて頂きます。
09.06.19