「ぜ、絶対痛くすんなよ?印の位置間違えんじゃねーぞ!?」
「はいはい、もう何回も聞いたからそれ」
互いに胡坐をかいて向かい合い、ロマーノの視線はスペインの顔に、スペインの視線はロマーノの左耳に向けられている。
スペインの右手に収まっている小さな白い物。その先端に付いた銀色の細いニードルの先が、ロマーノの耳朶に少し触れた。
先程から震えっぱなしのロマーノの身体が一瞬びく、と大きく跳ねる。
その直後動きが固まった一瞬を、スペインは逃さなかった。
がしゃん。
「っ!」
「はい終わり。痛くないやろ?」
「い、痛く無い訳ねぇだろコノヤロー!」
ようやく恐怖から解放されたロマーノはここぞとばかりスペインに喰ってかかる。
けれどスペインはへらへらと笑って、ロマーノの左耳に優しく手を伸ばした。
「暫くはじんじんしたり、寝るとき痛いかもしれんけど」
「や、やっぱり痛いんじゃねーか…」
騙された、と呟いたロマーノは恨めしげにスペインを睨み上げる。
目は涙で膜を張っており、頬は赤く染まっていた。そんな顔で睨まれても、スペインは怖くもなんともない。
寧ろ可愛いと思いつつ、左耳朶に存在を主張したガーネットの輝きを見つめる。
「やっぱロマーノに似合うわ。誕生石も考えたけど、アクアマリンはどっちかっていうとイタちゃんのイメージやしなぁ」
「俺はオニキスがいいって言ったのに」
「オニキスはあかん。昔はマイナス要素しか持たん石やってんで」
確かにロマーノには漆黒の石も似合っただろうが、スペインはどうしても自分に選ばせて欲しいと単身ファーストピアスを買って来たのだ。
自らが着ける訳でもない石を真剣に選んできたのは知っている。だからこそロマーノも自分の意見を押し切る事が出来なかった。
小さな鏡を向けられて覗けば、確かに左耳に今までは無かった存在。ロマーノは自分でも、それが酷く馴染んでいると感じた。
「…まぁ、これもいいけど」
「やろ?ダークレッド、よく似合うわ」
まるで自分の事のように喜ぶスペインに、ロマーノは照れくさくて素直に礼を言う事が出来ない。すぐに髪を被せて隠し、ふいと顔を背けてしまう。
それでもスペインは微笑んだまま、ロマーノを眺めて流れる様に説明をした。
「左耳のピアスは、勇気と誇りの象徴やねん。ロマーノが、誇り高く汚れ無き存在でありますように、って願って空けたで」
「…なんだよそれ」
「ガーネットには忍耐力を齎すとか、何事も成功に導いてくれる力があるねんで」
「へぇ…」
言われて、ロマーノは再び鏡を覗き込んだ。微かに口角が上がっているところを見ると、割と気に入ったらしい。
その表情にスペインは内心安堵する。無意識に息を吐き出して、気付いたロマーノが顔を上げた。
「何?」
「ん?……いや、」
言葉を区切って、再びピアスに視線を移す。
小さな小さな石の塊。けれどそれには、スペインの大きな願いが籠められていた。
「…なんでもない。ちゃんと毎日消毒するんやで」
「わかってる。膿んだら責任取れよな」
「勿論」
力強く頷いて、その柔らかい耳朶を石ごと舐め上げる想像をした。
実りの力を込めた、一途な愛を象徴する、その石ごと。愛しい存在も全て、纏めて。
そんな願いが籠められていると、ロマーノはいつ気付くだろうか。
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なんだこれ。初期設定と全然違う。
最初はスペインがロマにピアス空けてあげるとか可愛いなーと思ってただけだったのですが。
どうもアタシはスペインがロマーノを好きで好きで愛してないと気が済まないらしい(恋愛面で
西ロマって言うより西→ロマ。ロマーノには絶対ガーネット!!←主張
09.05.12